【ネタバレ】白昼夢の青写真感想
いいエロゲだった…掛け値なしに。今年最も価値ある20時間でした。緒乃ワサビは天才。
2020年は白昼夢の青写真の年。
以下ネタバレ感想
1. Case-1波多野凛
退廃的というか破滅へと向かいそうな雰囲気だった。こういうの好き。凛との出会いで疲れ切った中年の直島が情熱を取り戻していく展開がいいですね。事案でしかないけど。
憧れと嫉妬の物語でした。直島は天才小説家波多野秋房に、凛は直島の元妻に。凛は嫉妬していたから何かと元妻に張り合おうとしました。アジの3枚おろしを何度も練習し、横浜桜木町デートで見せつけるように腕を組み、ついには直島の家で情事に及びます。直島の元妻との思い出をすべて自分で塗り替えようとしたんですね。桜木町の書店で凛が腕を組む場面が凛ルート中で最も可愛い。そしてそれ以上に恐ろしい。女の怖さってやつです。
エロゲにありがちな無責任膣内射精をただのHシーンの枠組みに収めなかったのも個人的に評価が高いです。別れと再会につなげるいい起点でした。シナリオに関係ないHシーンはクリア後のおまけというのも話がだれずに済みます。
直島が秋房の残した日記を読み勧めて行く中で波多野秋房と同調していく様は引き込まれるものがありました。波多野秋房がそうしたように自死を選ぼうとするのもむべなるかな。しかし秋房と違い、直島には凛という自分の文学を理解してくれる存在がいました。断琴の交わりにもあるように、ただ1人でも自分の才を理解してくれるのなら人はそれだけで生きていけるのです。凛が直島の大学時代に執筆したイチョウの話を好きと言ってくれたのはそれだけで無常の祝福だったのです。自分の文章を好きと言ってくれる人にできることは何でしょうか。それは書くことです。凛のおかげで情熱を取り戻しまた書けるようになったとその思いの丈を赤裸々に込めた凛への手紙とも言える直島の私小説はこの上ない愛の告白でした。凛にとっても両親のかすがいにもなれなかった自分の価値を認めてくれたのは直島だったのです。お互いがお互いを必要とし、救われていたのです。
そんな二人でしたが凛には一度直島の生活を壊してしまったという負い目があります。だから妊娠という二度目の生活の破壊になる出来事を直島に告げることができなかったのですね。二人にとって幸いにして、それ以上にも不幸にして凛には波多野秋房の残した莫大な遺産があったので一人で産み育てるという選択肢を選ぶことができてしまいました。だから凛は直島の元を離れたのです。
さて、世凪が作るお話はすべて世凪の思い出から生まれています。この物語にあるのは自分の存在を否定した両親でしょう。若年性アルツハイマーに冒され娘のこともわからなくなった父が波多野秋房のモデルで、その父を捨てた母がそのまま凛を産んで離婚した秋房の元妻です。父親が何を考えていたか知りたいという凛の願いはそのまま世凪の願いでもあります。
2. Case-2 オリヴィア・ベリー
舞台は16世紀のテンブリッジ。主人公はなんとシェイクスピア。過去作のニュートンと林檎の樹より1世紀前です。ヒロインのオリヴィアは今作で最もおっぱいがでっかい。キャラクターを好きになる要素にはエロとキャラがあるのですが白昼夢の青写真ではエロ目線で一番好きなヒロイン。なぜならおっぱいがでかいから。適度にSでたまに「いいこ」って褒めてくれるのがいいですね。DVが得意そう。
オリヴィアに世凪の要素はあまり感じられませんがその分ウィルに海斗の要素を濃く感じます。世凪がこの物語にこめた思い出は世凪から見た海斗の印象でしょう。女性に対して奥手で10年以上一緒に暮らしてるのに手を出してもこない海斗のヘタレっぷりをウィルに落とし込んでいます。またウィルの記憶能力は世凪自身も持っているものですね。
ではオリヴィアには何があるかというと海斗の上昇志向でしょう。下層から這い上がってやるという海斗の執念が劇団で成り上がってやるというオリヴィアの夢に似ています。
3. Case-3 桃ノ内すもも
すもも𝓛𝓸𝓿𝓮...
失礼しました、あまりの感情にfont-size: 700%になってしまいました。すももルートは白昼夢の青写真で最も好きなお話です。物語の骨子は少年がお姉さんと出会ってひと夏の冒険を経て成長するというとても王道な展開でとても自分好み。ペンギン・ハイウェイ(森見登美彦)なんかも大好きなので。
カンナとすももが出会い交流していく中で自分の才能とやりたいことが一致した瞬間が読んでいてとても心地よいです。
母親に憧れていたカンナくんが母と全く同じことをやる必要はないんだと気づきます。すももの写真を撮ったことで人を撮る楽しさを知るというのも話の構造が美しくてよい。
すももルートは全体的に爽やかな香りが駆け抜けるお話でした。他のルートと違って最後の別れもいつか再び出会うまでの希望を持ったさよならなのもいいですね。
世凪は幼少期の海斗との出会いを思い出しながらこの物語を書いたのでしょう。ミニカーを作ろうとしていた海斗の才能に気づかせたのは人を撮る楽しさを教えたすももとかぶります。
4. Case-0 世凪
ヒロイン(なぜか銀髪)の秘密が明らかになるお話。
凛もオリヴィアもすももも皆銀髪だったのは世凪がモデルだったからなんですね。そしてその話すべてが世凪に集約するという各ヒロインのルートがTrueENDへの鍵になるエロゲの鉄板。世界の秘密が明らかになっていくので続きが気になって一気にやってしまいました。SF部分は深く考えてもしょうがないので「俺の宇宙では音が鳴るんだよ」の精神で読んでます。
世凪は海斗との出会いで世界に彩りを取り戻し、そして父と同じ病によって別れが来ると知っていたのでCase1, 2, 3ともに出会い恋して別離するお話でした。
世凪にもっといい暮らしをさせてやろうと中層を目指す海斗と下層でも海斗と一緒に過ごせるのならそれでいい世凪のすれ違いが見ていて辛い。想い合っているのにどうしてこんなにもわかりあえないのか。その結果世凪の手を離してしまうけどまたつかもうとあがく海斗の姿は魂が輝いている。最後はハッピーエンドで終わるからこそ名作です。エピローグも1はともかく2は取ってつけたようハッピーエンドになってしまいましたがそれは書いた世凪が当初は別れしか想像できなかったからしょうがないですね。だからこそ3の爽快感も増すというものですが。
5. 総評
非常におもしろいエロゲでした。個人的2020年1位確定はもちろん、個人エロゲ史に名を残してもいいエロゲです。令和にも名作が生まれ続けることを期待したいですね。